思い出すと涙が出るのはなぜ?|原因と対処法まとめ

何かのきっかけで昔の記憶がふと頭に浮かび、涙が止まらなくなる。そんな経験はないでしょうか。

筆者自身、幼い頃に亡くなった父のことを思い出そうとすると、今でも涙がこみ上げてくることがあります。涙が出る理由やきっかけは人それぞれですが、その背景を知ることで、少し気持ちが整理できることがあります。

涙が出やすくなる背景には、「気質」「体調(自律神経・ホルモン)」「うつ病」「トラウマ・PTSD反応」という4つの要因があります。
まず4つの要因で自分の傾向をつかみ、そのうえでセルフチェックを使って次の行動を決めていきましょう。

目次

涙が出る仕組み ― ふたつの視点をあわせて理解する

涙が出る仕組みには、心理学的な視点と脳科学的な視点があります。

心理的な視点 ― 抑え込まれた感情が涙になる

理由がわからないまま流れる涙の奥には、見過ごされてきた感情が隠れていることがあります。

アンガーマネジメント(怒りの感情を理解し、上手に付き合うための心理的な技法)の分野では、怒りは次のような構造で説明されます。

  • 一次感情:「苦しい」「悲しい」「寂しい」といった、最初に感じる感情
  • 二次感情:一次感情が行き場を失って溢れたときに表れる「怒り」

涙についても、同じような二段階の構造になぞらえて説明されることがあります。

たとえば、忙しさに紛れて後回しにしてきた寂しさや悔しさが、何気ない瞬間に涙となって表れることがあります。

理由がわからないまま涙が出るときほど、実は長い間見過ごしてきた気持ちが背景にあるのです。

脳科学的な視点 ― 危険を学習した防衛反応としての涙

思い出すと涙が出るのは、体を守るための仕組みの一部だと考えられます。

脳には、危険や怖い体験を優先して記憶に残す働きがあります。
辛い出来事ほど記憶に強く刻まれ、何度も思い出しやすくなるのはそのためです。

「同じ目にまた遭わないように」と脳が学習した結果、当時に似た状況に触れただけで涙が出るのです。

ふたつの視点に共通すること

心理的な視点も脳科学的な視点も、涙を「弱さ」ではなく心と脳がきちんと働いている証拠だと捉えています。

記憶は鮮明なのに、理由がわからない涙が起こる理由

記憶がはっきりしていても、涙の理由がわからないことがあります。

たとえば、特定の音や声のトーン、ふとした瞬間に香る匂い、何気ない言葉の言い回し。こうしたきっかけは、意識しないうちに記憶とつながっていることが多いのです。

「なぜ今、この記憶が出てきたのか」という部分は、頭の中で無意識に処理されていると考えられます。涙が出た瞬間に、無理に理由を探す必要はありません。「今、何かの記憶が刺激されたのだろう」。そう一旦受け止めるだけで十分です。

忘れようとするほど記憶が強まる理由

嫌な記憶は、忘れようとするほど消えにくくなります。

記憶を意図的に消し去ることは基本的にできません。忘れようと意識すればするほど、その記憶に注意が向いてしまい、かえって記憶が強化されてしまうためです。

無理に打ち消そうとする対処法は逆効果です。記憶が浮かぶこと自体を責めるより、後述する「安全な事実へ意識を切り替える」方法のほうが、よほど現実的な向き合い方といえます。

涙が出やすくなる背景にある4つの要因 ― 全体像を先に知る

涙が出やすくなる背景には、性質の異なる4つの要因が考えられます。まず2つのグループに分けて、全体像をつかみましょう。

気質・体調と、うつ病・トラウマ ― 2つのグループで捉える

涙が出やすくなる4つの要因とは、気質(HSP)、自律神経・ホルモンの変化、うつ病、トラウマ・PTSD反応です。これらは、次のように2つのグループに分けられます。

要因グループ特徴
気質(HSP)一時的に涙が出やすくなる要因生まれ持った感受性によるもので、それ自体が治療を必要とする状態とは限らない
自律神経・ホルモンの変化一時的に涙が出やすくなる要因体調の波によるもので、それ自体が治療を必要とする状態とは限らない
うつ病専門家のサインとして注意したい要因涙以外にも複数の症状を伴い、日常生活への影響が続く
トラウマ・PTSD反応専門家のサインとして注意したい要因涙以外にも複数の症状を伴い、日常生活への影響が続く

気質や体調による涙もろさは、時間の経過や休養によって落ち着いていきます。うつ病やトラウマ・PTSD反応は、涙以外の症状が重なり、長く続く点が違います。

背景要因は重なり合うことがある

これら4つの要因は、複数当てはまる場合もあります。HSPの傾向がある人が、同時にうつ病やトラウマ反応を抱えている場合もあります。

要因を1つに絞り込もうとするより、涙以外にどんな症状が、どれくらい続いているか。次のセルフチェックで、その基準から自分の状態を確認していきましょう。

気質によるもの ― HSPとの関係

4つの要因を1つずつ見ていきます。まずは、生まれ持った気質であるHSPとの関係です。

HSPの人が涙を流しやすい理由

HSPの人は、涙もろさにつながりやすい気質を持っています。

HSP(Highly Sensitive Person)とは、生まれつき感覚や感情の刺激を人よりも強く受け取りやすい気質を指す言葉です。音や光、他人の感情の変化を敏感にキャッチするため、些細な出来事や会話の一場面が心に残りやすくなります。

たとえば、何気ない一言や、相手の表情のわずかな変化を後からふと思い出して、涙が出ることがあります。

感受性の高さゆえの反応であり、細やかな感情の動きに気づける力の裏返しです。

HSPは病気ではなく気質である理由

涙もろさの背景がHSPに近いと感じても、治療が必要な状態とは限りません。

HSPが精神科の診断名ではないためです。HSPは、心理学の分野で提唱されている気質的な傾向を指す概念であり、うつ病やPTSDのように医学的な診断基準に基づいて診断される疾患とは性質が異なります。

気分の落ち込みが長引くうつ病とは異なり、HSPは生まれつきの感受性の高さそのものを指す言葉です。

涙もろさの背景がHSPに近い場合、それはその人がもともと持っている感受性の特徴だと捉えることができます。

体調によるもの ― 自律神経とホルモンの一時的な変化

続いて、体調面の要因である自律神経とホルモンの変化を見ていきます。

ストレスの蓄積と自律神経の乱れ

夜になって急に涙があふれるのは、自律神経の乱れが関係していることがあります。

仕事や人間関係のストレスが積み重なると、自律神経のバランスが崩れ、感情のコントロールが難しくなるためです。日中は気にならなかった出来事でも、夜に心身が緩んだ瞬間にふと思い出され、急に涙があふれることがあります。

このような涙は、心が「そろそろ休ませてほしい」と発しているサインです。睡眠や休養が不足している時期に増えやすいため、生活リズムを見直すきっかけになります。

軽い動悸を伴うこともありますが、休養で落ち着く一時的なものがほとんどです。動悸が続く場合や強い恐怖感を伴う場合は、次の「トラウマ・PTSD反応」もあわせて確認してください。

生理周期や更年期による涙もろさ

女性の場合、生理前や更年期にはホルモンバランスの変動によって気分が不安定になり、涙もろくなることがあります。PMS(月経前症候群)や更年期障害では、普段なら気にならない過去の出来事を思い出して涙が出る場合があります。

筆者の場合も、月に1度のペースで涙もろさが強まる時期があり、PMSを疑い、婦人科に行ったところ低用量ピルを処方してもらいました。
服用を始めてからも思い出すことはありますが、「今は体調的に弱っている時期なのだ」と冷静に受け止められるようになりました。

こうした変化は自分の意志でコントロールできるものではありません。無理に感情を抑え込もうとせず、婦人科への相談も選択肢のひとつとして考えてみてください。

うつ病のサイン

専門家のサインとして注意したい要因のひとつ、うつ病です。

うつ病でみられる涙の特徴

以前なら気にならなかった場面で涙がこぼれるのは、うつ病のサインである可能性があります。

うつ病では、気分の落ち込みとともに、過去の失敗や辛い出来事を繰り返し思い出してしまう反芻思考が起こりやすくなるためです。
たとえば、何年も前の些細な失言をふいに思い出し、感極まって涙が止まらなくなることがあります。

このような涙は、性格や気力の問題ではなく、脳内の神経伝達物質の働きの変化が関係していると考えられています。

涙以外に現れやすい症状(不眠・意欲低下)

うつ病を疑う際は、涙もろさだけでなく、次のような症状が同時に出ていないかを確認してみましょう。

  • 以前は楽しめていたことに気持ちが向かなくなった
  • 寝つきが悪い、または途中で目が覚める
  • 食欲がわかない、または増えすぎる
  • 何をするにも疲れを感じる
  • 「自分はダメだ」という考えが頭を離れない

これらの症状が2週間以上続き、日常生活に支障が出ている場合は、うつ病の可能性を考え、心療内科や精神科への相談を検討する目安になります。

トラウマ・PTSD反応 ― 程度の異なる2つのケース

トラウマ・PTSD反応には、重い反応から気づかれにくいものまで、深刻度に幅があります。
同じ言葉でも程度はさまざまです。

動悸や強い恐怖を伴う場合(重いトラウマ反応)

涙と同時に動悸や強い恐怖感を伴う場合は、トラウマ反応やPTSDの可能性を考える必要があります。

脳が「危険が迫っている」と誤って判断し、防衛反応を起こしていることが背景にあるためです。

特定の音や状況をきっかけに、当時の記憶が鮮明に蘇り、まるでその場に戻ったかのような感覚を伴うことがあります。これは「フラッシュバック」と呼ばれる症状です。

深呼吸をして今いる場所や見えているものを声に出す。「今ここ」に意識を戻す方法が、落ち着きを取り戻す助けになります。

幼少期の家庭環境による、気づかれにくい涙もろさ

動悸を伴わない涙もろさの背景に、幼少期の家庭環境が関係していることがあります。

子どもの頃、親が仕事や生活に追われて十分に構ってもらえなかった経験があると、その寂しさが言葉にならないまま心に残るためです。

筆者自身、シングルマザーの家庭で育ち、休日も仕事の疲れで眠っている母の隣で、一人で遊んでいた記憶があります。当時の寂しさをふと思い出すと、今でも涙がこみ上げることがあります。

当時の自分が感じていた「もっと見てほしかった」「甘えたかった」という気持ちが、似た状況に触れたときに刺激されるのです。

自分の状態を確認するセルフチェック

4つの要因を踏まえて、次に取るべき行動を確認しましょう。要因が何であるかにかかわらず、涙以外の症状の有無と、その持続期間を基準に、大きく2つの段階で自分の精神状態を確認していきます。

経過観察でよい状態と、専門家へ相談したい状態の目安

2つの段階の目安は、次のように整理できます。

段階目安となる状態
経過観察でよい状態涙は出るが他の症状は目立たない
睡眠不足や疲労が重なる時期に増えるが休むと軽くなる
動悸があっても一時的で休養とともに落ち着く
専門家への相談を検討したい状態不眠や意欲低下が2週間以上続いている
動悸や息苦しさなど身体症状を伴うことが増えている
涙が出る頻度が高く自分でも止められない

専門家への相談が1つでも思い当たる場合は、1人で判断を抱え込まず、相談先を検討する材料にしてみてください。

特に急いで相談してほしいサイン

「消えてしまいたい」という気持ちが少しでも浮かぶ場合は、ためらわずに専門家へ相談してください。
気質や一時的な疲労とは切り分けて考える必要があります。

一人で抱え込む必要はありません。

涙との向き合い方 ― 自分の状態に合わせた対処法

セルフチェックで確認した自分の状態に応じて、向き合い方を選んでいきましょう。

うつ状態や強い疲労がある場合に優先すべきこと

気分の落ち込みが強い時期は、対処法を実践するより休養を優先してください。

心身が消耗している状態では、無理に前向きな考え方へ切り替えようとしても、かえって負担になるためです。
気持ちを切り替えられないと感じるのは、心身が休養を必要としているサインです。

これから紹介する対処法よりも、十分な休養と、必要であれば医療機関での治療を優先することが、回復への近道です。まずは休むことを自分に許してあげてください。

経過観察でよい場合の対処法

経過観察でよい状態にある場合は、次のような方法を試してみてください。

涙や不安がこみ上げてきたときは、以下の方法で気持ちを落ち着かせることができます。

  • 深呼吸をして、目に見えているものを声に出してみる(「窓の外に木がある」など)
  • 「今は安全な場所にいる」「あの出来事はもう終わっている」と、安全な事実を言葉にして思い出す
  • 手のひらに当たる衣類の感触や、椅子に座っている感覚など、身体の感覚に意識を向ける

過去の記憶に向いている意識を、「今」へ引き戻すことで、涙を無理に止めようとするよりこうした形で気持ちを整えるほうが効果的です。

涙が出た出来事や、そのときの気持ちをノートに書き出すと、自分の感情のパターンに気づきやすくなります。
うまく言葉にならなくても、感じたままを書き留めるだけで、後から自分の状態を把握する材料になります。

慣れてきたら、その日あったポジティブな出来事や、感謝したいことを合わせて書いてみるのもよいでしょう。
涙の記録だけに偏らず、心のバランスを保つ習慣として続けやすくなります。

まとめ

最後に、涙が出る4つの要因を振り返りましょう。

4つの要因は重なり合う

思い出すと涙が出る背景には、気質(HSP)、体調(自律神経・ホルモン)、うつ病、トラウマ・PTSD反応という、性質の異なる4つの要因があります。

これらは重なり合うこともあり、要因をどれか1つに決めつける必要はありません。
涙以外にどのような症状が、どれくらい続いているかを基準に、次の行動を判断してください。

次にとるべき行動

涙が出た自分を責める必要はありません。

「今、何かの記憶が刺激されたのだろう」。そう一旦受け止め、経過観察でよい状態か、専門家への相談を検討したい状態かをセルフチェックで確認してみてください。あなたの涙は、心が危険を発しているサインです。

つらい状態が2週間以上続いている場合や、日常生活に支障が出ている場合は、一人で抱え込まず、心療内科や精神科への相談を検討してみてください。話を聞いてもらうだけでも、気持ちが軽くなることがあります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次